数年前まで”知っている人は多くありませんでしたが、いま金融業界や投資家達に当たり前の知識となっているのがTCFD『Task Force on Climate-related Financial Disclosures』つまり、 気候関連財務情報開示タスクフォースです。TCFDとは、財務情報に環境リスク等に対する取り組みや対策状況を記載する取り組みになります。
今回は、TCFDの概要やその目的、賛同するメリットやその広がり状況、賛同する企業がやるべきことについて、2回に分けて解説を行います。
目次
TCFDとは
TCFDは、G20の財務大臣や中央銀行総裁が、金融安定理事会(FSB)へ要請したことからスタートしています。その要請とは、金融セクターが気候関連課題を検討することです。この要請を受けて、FSBが2015年に民間主導でマイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立したのがTCFDになります。
TCFDの活動は、企業に対して気候関連財務情報の開示を即すことが目的になります。さらに、この財務情報は投資家が適切な投資判断ができるものであることが必須になり、『一貫性』『比較可能性』『信頼性』『明確性』などの性質を求めています。そして、2017年6月に、情報開示のあり方をTCFD報告書にまとめて公表しています。
参考:環境省『【参考資料】機構関連財務所法開示タスクフォース(TCFD)の概要』
日本でも、このTCFD報告書をきっかけとして、気候変動への企業の取組や情報開示の要請が高まることになりました。その結果、経済産業省が2018年8月にTCFD研究会を設立し、経営者と投資家とともにTCFD提言に沿った情報開示のあり方を検討し、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)」を策定しました。
参考:経済産業省『TCFDガイダンスの策定とTCFDへの署名を行いました!』
その背景
TCFDが注目されている背景に“気候変動対応が企業価値を左右する”という考えがあります。前述のFSB議長(Mark Carney)は2015年9月のスピーチで、気候変動は金融システムの安定を損なうリスクがあることを指摘しています。また、気候関連リスクとは以下のようなリスクがあります。
物理的リスク
洪水や暴風雨などの異常気象による倒壊などの直接の影響と、サプライチェーンの中断や資源の枯渇などの間接的な影響があります。
移行リスク
低炭素経済への移行にともなう資産や事業などの再評価によって既存の評価が棄損するリスク。低炭素経済へ移行することで、規制の強化や新技術の導入、消費者の思考・行動の変化による市場や評判の変化などが具体的に挙げられます。
賠償責任リスク
気候変動の損失を被った者からその損失の責任を問われて賠償請求を行われるリスクがあります。
気候関連のリスクの影響がより現実的かつ範囲が『広く』『大きく』なってきた結果、投資家が気候変動の財務への影響の公開を、各企業へ求める動きがが強まってきました。
参考:環境省『【参考資料】気候関連財務所法開示タスクフォース(TCFD)の概要』
目的
TCFDの最終的な目的は、低炭素社会への移行を円滑に実行させることで金融市場の安定させることになります。そして、金融市場の安定を実現させるために、”組織が既存の開示義務をより効果的に満たせるよう助けること”と、”資産管理会社および資産所有者による報告は、顧客、受益者、規制当局、監視機関のニーズを満足させること”という大きく2つの実現を目的としています。つまり、気候関連リスクと機会について取り組む企業のその情報開示をサポートすることと、投資家などが適切な投資判断をすることを助けることになります。
参考:TCFD『最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言』
TCFD提言に取り組むメリット
気候変動へのリスクと機会への取り組み状況を投資家に伝えるメリットは、企業にもあります。気候変動のリスクが高まれば高まるほど、そのリスクに敏感な投資家ほど気候変動へのリスクと機会に適切に取り組んでいる企業への投資を検討する機会が増えます。
金融機関による投資増加
気候関連リスクを正しく評価し管理している企業は、投資家や金融機関の信頼を得ることに繋がります。
既存の開示要件を今まで以上に効果的に実行できる
気候関連リスクや機会について情報開示することは、財務報告における重要性の高い情報を報告する義務を履行することになります。
リスク管理強化と情報に基づく戦略策定の実現
情報開示をおこなうことは、その企業の気候関連リスクと機会についての認識や、理解の向上に繋がります。その結果、リスク管理や適切な情報に基づく戦略の策定とその実行に繋がります。
投資家への積極的な関わり
TCFDの提言する情報開示枠組みを活用することは、気候関連情報を必要とする投資家や、金融機関へ積極的に応える行動に繋がります。
まとめ
今回はTCFDについて概要と取り組むメリットについて解説をしました。次回第2回では、現在の世界と日本での取り組みの広がり、実際にTCFDの賛同企業が取り組むべきことについて解説します。ぜひ、そちらもご覧ください。