2021年版ソーラーシェアリングの現状と展望 日本の再エネ普及の切り札

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2021年1月、予想を上回る寒波が日本・世界を襲いました。サハラ砂漠で雪が降り、「世界一寒い場所」のタイトルを持つロシアのオイミャコンでは、マイナス55.1度を記録しました。そんな中、日本では寒波と発電燃料となる液化天然ガス(LNG)の在庫不足により、深刻な電力不足に陥っています。

参照:LNG不足のなぜ 生産・物流混乱が壁 電力需給逼迫で-日本経済新聞

日本は資源に乏しい島国のため、発電に際して必要な燃料資材は海外輸入に依存しています。一方で世界的な脱炭素への動きを受け、日本も再生可能エネルギー普及促進が叫ばれています。しかし、その日の天気により再生可能エネルギーの発電量は増減するため、単純にたくさん再生可能エネルギー設備を設置すればよいわけではありません。大前提として、電力は需要と供給を絶えず一致させる必要があります。そのため、再生可能エネルギーの設置は慎重に行われるようになっています。

ただ、日本はまだまだ再生可能エネルギーを設置出来る土地があります。さらに農業を行う人口は年々減少しており、耕地面積は2019年の439.7万haから、2050年には366万haに大幅に減少すると予想されています*2

*1参照:ネットゼロ実現に向けた風力発電・太陽光発電 を対象とした大量導入シナリオの検討-電力中央研究所
*2参照:「国土の長期展望」中間とりまとめ 参考資料-国土交通省

上記のような見通しが予想されている中で、農業と発電事業を両立するソーラーシェアリングが再生可能エネルギーの普及の柱として関心を集めています。この記事では、ソーラーシェアリングの現状と課題を解説していきます。

ソーラーシェアリング(営農型発電/営農型太陽光発電)とは?

農地の上に支柱を建て、太陽光発電を行う傍ら、農業も行っていくのがソーラーシェアリングの基本モデルとなっています。太陽光発電で発電した電気は売ることができ副収入になるため、発足当初は農家の導入に始まり、現在は農家だけでなく企業による導入も増加しています。

ソーラーシェアリングは基本的には作物を栽培する農地の上部に太陽光パネルを設置するため、太陽の動きに合わせ変化するとは言え、農地に常時太陽光パネルや支柱の影が落ちます。一般的に作物の生育には日照が必要とされており、影は生育に悪影響を与えてしまうと思われがちです。

しかし、作物には光飽和点と呼ばれる作物が光合成できる光の量の限界点があります。この限界点を満たせるほどの日照を確保できれば生育には問題ないとされ、このことがソーラーシェアリングを可能としている基本概念となっています。

ソーラーシェアリングの実施においては、太陽光パネルの設置を工夫することで下部の農地に落ちる影を調節します。設備下部の農地に占める影の割合を遮光率と呼び、作物ごとに適した遮光率となるよう設備を設計、設置します。

作物によっては、影の発生がむしろ生育に良い影響を及ぼす可能性もあります。ただ、現状ではまだまだ科学的実証が足りておらず、実際にどれくらい作物の生育に影響を与えるかは定かになっていません。

 また、ソーラーシェアリングの申請時には、多くの資料を用意する必要もあります。詳しくは農林水産省が出している「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック」をご覧ください。

参照:営農型太陽光発電について-農林水産省

ソーラーシェアリングの現状

ソーラーシェアリングは平成30年時点で1,992件導入されています(農林水産省)。導入件数は前述の展望や再生可能エネルギー大量導入への期待値からはまだまだ少ない数値に留まっています。なぜ普及率があがっていかないのか、理由は大きく3つあると思われます。

出典:営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査(平成30年度末現在)調査結果について-農林水産省

1.許可までの手続きが煩雑であること

ソーラーシェアリングを新たに設置しようとすると、必要書類が20種類ほど必要になります。そのなかでも大きなハードルとなる資料が、「知見を有する者の意見書」です。知見を有する者の意見書では、ソーラーシェアリングの設置要件の一つである地域の平均的な単収の8割を確保できることを、データを用いて示すことが要求されます。先ほども述べていますが、現時点でソーラーシェアリングの科学的な実証事例は少なく、単収の8割の確保を科学的に示すことは難しいのが現状です。すでに設置されている事例の収量データを引用することもできますが、太陽光パネルの遮光率は事例ごとに異なるため、そのまま根拠として使用するのは難しいといった状況にあります。

出典:営農型太陽光発電 報告書校正用4-静岡県経済産業部

2.許可に対する地域の農業委員会の懸念

ソーラーシェアリングはまだまだ全国でも導入件数が少ないことから、農業委員会でも許可に対して慎重な姿勢がうかがえます。また、既設案件で営農が疎かになっているものも見受けられるため、営農がしっかりと行われるか懸念を強めています。ソーラーシェアリングはFIT制度を用いた売電が可能なため、売電を主目的として設置されることもあるようです。

3.ソーラーシェアリングの栽培作物の偏り

現在のソーラーシェアリングでは、日陰でも育つ作物が比較的多く選定される傾向にあります。太陽光パネルを多く取り付けようとすると下部の遮光率が上がります。そうすると、必然的に陰であっても育つ作物が選ばれるようになり、栽培作物が偏ってしまいます。一見栽培作物が偏るとより同じ作物で申請する際に簡単なようにも思えます。実際は先行事例が多くあるということで、申請の際に栽培出来る根拠をより集めないといけなくなる可能性が高まります。

出典:ソーラーシェアリング全国調査結果報告書-千葉大学倉阪研究室

ソーラーシェアリングを普及させるために

現状、ソーラーシェアリングの市場はまだまだ可能性に溢れていると考えられます。では、ソーラーシェアリングを普及させるためには何が必要だと思われるのか、大きくは2つあると考えられます。

1.煩雑な書類手続きを簡略化すること

ソーラーシェアリングの手続きは多くの資料を揃える必要があり、申請のハードルは高く設定されています。このハードルをクリアするためには、個人や経験のない企業では難しいため、基本的にソーラーシェアリングの申請に精通している業者や行政書士に依頼する必要があります。

2.農業をしっかり行うこと

 現状、ソーラーシェアリングの半数以上は、発電事業者と営農者が異なる状態です。農業も一朝一夕でできるものではありませんので、営農者が農業の知見を有することが望ましいと考えられます。営農の部分がしっかりと計画、実行されていれば、農業委員会も許可しやすいと思われます。

参照:営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査(平成30年度末現在)調査結果について-農林水産省

革新的な事業モデルの構築や新たな付加価値を創造すること

現在のソーラーシェアリング事業の実施は、経済産業省の固定価格買取(FIT)制度ありきです。FITの買取価格が低額となった今、普及の速度は鈍化し、投資効率も下がったことから事業者にとって以前ほど魅力のある事業ではなくなりました。今後の普及には、FITに依存しない自家消費・地域循環モデルや事業組成を容易にするスキームの構築、農業面で他と差別化できる商品の開発やマーケティング、6次産業化などが求められているのかもしれません。

今回はソーラーシェアリングについての記事でしたが、国土の狭い日本にとってソーラーシェアリングは今後有望な再生可能エネルギー普及の一助になると思われます。今後も政府の法改正や脱炭素への動向に注意を払っていきたいですね。

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