CO₂等の排出に伴う地球温暖化、気候変動問題に対し早急に対応しなければならない段階に来ています。社会をリードすべき大手企業の多くはSBTを通じて、具体的な解決に向けて行動し始めています。
SDGsやREアクションなど、脱炭素社会への取り組みが企業や自治体の成長に欠かせないといわれる中、SBTとはそもそも何なのか気になる方も多いのではないでしょうか。
今回は、まだ国内ではあまり知られていないSBTの概要について詳しく解説していきます。21世紀の時代の波に乗り遅れないよう、ぜひ今後の事業計画の参考にして下さい。
目次
SBTの概要
SBTとは「Science-based targets」を略したもので、産業革命以来の気温上昇を「2℃未満」に抑えることを目指して、各企業が設定した温室効果ガスの排出削減目標とその達成に向けた国際イニシアチブです。5年から15年を目標年とし、パリ協定に沿った内容となっています(SBTイニシアチブと呼ばれる国際的プロジェクトも実施しています)。
SBTの調査によると、1800年代から2016年にかけて著しい気候変動・気温上昇が見られており、このペースでいけば2100年にには4℃~6℃まで気温は上昇すると言われています。
SBTでは、企業や各国でCO₂削減に早急に取り組むことによって、今後の気温上昇を1.5℃に抑えることは科学的に可能だと考えています。
深刻化する地球温暖化を解決するために、SBTでは世界的な規模で各企業にCO₂排出量の削減目標の設定と実施を加速させる役割を果たしています。科学的根拠に基づいたCO₂排出量の削減計画であることがSBTの基盤になっています。
参照:Business Ambition 1.5℃-SCIENCE BASED TARGETS
参照:SBTとは ‐ 環境省
SBTの4つの目標
各企業が低炭素社会に向けて取り組むことによって、以下の4つの目標が果たせるとSBTでは考えています。
Increase Innovation ~企業の技術革新を促す
低炭素社会への移行は、新しいテクノロージの開発やビジネス環境の構築もたらす。野心的な目標を設定し取り組む企業は、明日のイノベーションと変革をリードする。
Reduce regulatory uncertainty ~規制の不確実性を軽減できる
低炭素社会実現に向けた積極的な活動は、その企業が温室効果ガス排出削減に関する将来の様々な政策や規制を先導する役目を果たす。リーダーとみなされた企業は特に、政策立案者や立法に大きな影響を与えうる。
Strengthen investor confidence and credibility ~投資家の信頼・信用を強化する
企業が自らCO₂削減へ取り組み社会をリードすることによって、企業価値が高まり投資家や顧客から大きな信頼、信用を得られる。
Improve profitability and competitiveness ~収益を上げ競争力を高める
さらに、各企業が競ってCO₂削減の目標達成に向かうことで、企業自身の収益を上げ競争力を高め、持続可能な企業へと導く。
SBTの設立について
SBT設立のきっかけは、2015年のパリ協定でした。
パリ協定では、195ヵ国が地球温暖化の解決に向けた行動を行なっていくことに合意しました。すでに多くの大手企業が低炭素社会に向けた行動を起こしてきましたが、より一層、意欲的、野心的かつ科学的根拠に基づき取り組むための目標が必要だとされ、SBTが設立されました。
SBTは、まずは企業の温室効果ガスの排出量削減を推進、徹底していくべきだと考えています。そこで、SBTではCO₂削減の具体的な基準を設け加盟企業を募り、基準を達成した企業を認定・表彰していくことで、達成意欲を駆り立てようとしています。
SBTの運営法人
SBTは4つの運営法人によって構成されています。
CDP(DISCLOSURE INSIGHT ACTION)
CDPは気候変更・環境問題に取り組む非営利法人で、企業の環境への取り組みに関するデータも収集・公開しています。
UN GLOBAL COMPACT
UN GLOBAL COMPACTはパリ協定で発足したSDGsの目標や理念を企業に広めるための世界最大のイニシアチブす。
WRI(WORLD RESOURCES INSTITUTE)
WRIは地球の環境・開発に関する政策研究や技術支援を行う国際機関で、2年に1度UNEPとUNDPと共同制作した「World Resources」を出版しています。
WWF(World Wide Fund for Nature)
WWFは約100か国で展開している環境保全団体です。生物の多様性と人間の調和した共存を目指し募金活動などを行っています。
参照:About The science based targets initiative – SCIENCE BASED TARGETS
SBTの加盟企業と加盟方法
SBTが目指す低炭素社会以降に向けた取り組みは、世界規模で加速しつつあります。2020年10月28日時点で1009社の企業がSBTの理念に沿ってアクションを起こし、すでに485社はSBTの基準を達成し認定されています。
ここでは国内外の代表的なSBT認定済の企業名、加盟方法などをご紹介していきます。
SBTの加盟企業
世界60か国、約50種類の様々な業種の企業がSBTに加盟しています。
海外の企業
海外ではヨーロッパが最も多く約500社、北米で約200社、日本を含めたアジア圏で約230社が加盟しています。海外のSBT認定企業には、コカコーラやデルなどがあります。
参照:Case Study – SCIENCE BASED TARGETS
国内の企業
国内では現在102社が加盟、認定を取得している企業は75社です。国内の認定企業には、SONY、パナソニック、サントリー食品などがあります。
参照:SBTiの参加企業 -グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
SBTの加盟方法
SBTに加盟する方法を次に解説していきます。
加盟までの流れ
- Commitment LetterをSBT事務局に提出 (2年以内にSBT設定を行う旨を宣言)
- 目標の設定 → SBT認定を申請 (申請書を提出)
- SBT事務局による認定基準の審査 (該否をメールで回答)
- 認定されるとSBT公式サイトにて公表 (関連するWEBサイトでも公表)
- CO₂排出量と進捗状況を報告・開示 (年1回)
- 定期的に目標の妥当性を確認 (必要に応じて目標を再設定)
以上のような流れでSBTに参加、認定を受けることができます。詳細についてはSBTの公式HPや環境省で公表している環境庁のSBTサイトなどを参照下さい。
目標の設定
SBTにおけるターゲットの設定は認定基準を満たす必要があります。SBTの認定基準や目標の設定方法を解説していきます。
GHG Scopeとは
ターゲットを設定するうえで、まず最初に抑えておきたいのがCO₂排出の種類(サプライチェーン排出量)です。SBTでは、GHG Scope1、2、3としてCO₂排出の種類を分類しています。また、GHGとは、温室効果ガス: greenhouse gasの頭文字をとったものです。
SCOPE1 | 直接排出 | 自社の燃料使用に伴うCO₂ |
SCOPE2 | 間接排出 | 他社で生産されたエネルギー使用に伴うCO₂ |
SCOPE3 | 他間接排出 | 組織のサプライチェーン全体で生じるCO₂ |
Scope3の上流、下流とは販売によって生じるものか購入によって生じるものかで分けられています。上流とは「購入活動によって生じる排出量」、下流とは「販売活動によって生じる排出量」のことです。
設定の基準
SBT目標設定は概ね以下の要件を満たすことが必要です。
- Scope1、2の目標設定が最低でも2.0℃以下となることが条件
- 目標年は基準年から最短5年、最長15年以内であること
- 毎年の削減率は前年度よりも2.5%以上であること(4.2%推奨)
- Scope3を含めてトータル的に1.5℃を目指すことを推奨
- Scope3の排出量が全体の40%を超える場合はScope3の目標設定が必要
- 科学的根拠に基づいた排出量の削減であること
- 最新のツール/手法を用いて計算されなければならない
目標設定のイメージ
①設定手法を選択
毎年2.5%削減を狙うのか、4.2%削減を狙うのかを選択します。
②削減経路を算出
削減経路が科学的根拠に基づいて実現可能な方法なのか、どれくらいの削減が可能なのか検証します。
③目標年の選択
基準年から何年ぐらいで実現可能なのかを選択します。
また、SCIENCE BASED TARGETSの公式サイトでも目標設定のガイドラインや手続きマニュアルを見ることができます。合わせて参考にしてみて下さい。
Step by Step GUIDE – SCIENCE BASED TARGETS
SBTは再生可能エネルギーを知ることから
CO₂削減への一番の近道は、まずは再生可能エネルギーへと主要電力・車の燃料をシフトすることだといわれています。世界的な規模で再生可能エネルギーを普及させるためにも、各企業が積極的に脱炭素社会をリードしていくことが求められています。
SDGs、REアクション、そしてSBTと脱炭素社会・CO₂削減の具体化は、今や企業の価値や信頼性を左右する、最低限度の社会的義務になろうとしています。具体化へ向けて検討したいと各企業の関心は高まりつつも、CO₂削減への糸口が見つからずに戸惑うケースもまだ多いようです。
再生可能エネルギーといっても、太陽光発電、バイオマス発電など多種多様な方法が存在します。各企業の業種やその他状況によって実現可能な再生エネルギーの種類や活用方法も変わってきます。ひとまずは再生可能エネルギーについて理解を深めておくことが、脱炭素社会実現に向けて最初の一歩になるといえるでしょう。