今、世界中で再生可能エネルギーへの注目度が高まっています。Appleは2018年、世界中の自社設備で使う電力の全てを再生可能エネルギー由来のものに切り替えました*¹。さらにSupplier Clean Energy Program(サプライヤークリーンエネルギープログラム)を推し進め、サプライヤー企業にまで再生可能エネルギーの利用を求めています*²。
*1 参照: Apple、 再生可能エネルギーで 世界的に自社の電力を100%調達 – Apple
*2 参照: Supplier Clean Energy 2020 Program Update – Apple
世界で生じるこの再生可能エネルギーの潮流に乗ることで得られる大きなメリットを3つ、この記事で解説していきます。再エネ100宣言RE Action によるインタビュー*³を参照に様々な事例も載せていますので、参考にして下さい。
*3 参照:再エネ100へ【事例紹介】-再エネ100宣言RE Action
目次
1. ビジネスチャンスの拡大
再生可能エネルギーのムーブメントに乗ることで得られる大きなメリットの1つ目は、ビジネスチャンスの拡大です。上述の世界的な動向に加え、日本が宣言した「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」という目標にむけて、すべての企業に方向転換が求められています。今後のビジネスの拡大において、再生可能エネルギ―の導入は大きなビジネスチャンスにつながっていくでしょう。
サプライチェーン内のサプライヤーとしての地位
Appleは2015年にSupplier Clean Energy Programを立ち上げました。これはApple製品の製造過程で使用される電力を再エネ由来電力に切り替えることを求めるもので、Appleの影響力の大きさから多くのサプライヤーが参加し、大きな進展を見せています。
日本企業でもサプライチェーンを巻き込んだ脱炭素化策は進められており、温室効果ガス排出を実質ゼロにできる再エネ100%への転換は大手企業のサプライチェーンに位置する企業に取引上の大きなメリットを生み出します。
自社製品・サービスの差別化、付加価値アップ
再生可能エネルギーの推進や、環境経営の実践は、自社製品・サービスの差別化となり、さらには企業のブランド力向上になります。ブランド力の向上により、一定の顧客層の購買行動を誘発したり、有利な取引条件の締結や新規取引先の開拓など、様々な効果をもたらしうるものです。
特に再生可能エネルギーを導入、推進している場合、再生可能エネルギーをサプライチェーンの企業も含めて推進する企業との取引に有利にはたらくなど、ビジネス相手の確保につながります。
事例 エコワークス株式会社
2020年5月に、モデルハウスを含む全事業所17カ所で、電力を再生可能エネルギーへと100%切り替えました。強みとする省エネハウスに再エネを加えた提案へと発展させ、また、自社ビルでは消費電力の58%を省エネで削減し、残りを再生可能エネルギーで賄っています。これにより使用エネルギー量(空調・給湯・照明・換気など)を賞味ゼロとする「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」を達成しました。自社製品・サービス価値も省エネ企業としての企業価値も、ともに高まったと実感する状況、とのことです。
パートナーシップ構築
近年認知度が上がりつつあるSDGsの、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にもあるように、同業他社だけでなく、他業種他社との連携も重要になっています。他社とのパートナーシップの構築は、社会課題の解決やその他目標の達成だけでなく、ビジネスに発展する可能性をも秘めています。「再生可能エネルギ―の導入」という接点で、これまでは関わることのなかった業界との関係構築が期待できます。
ここでは、再生可能エネルギ―の導入をきっかけに他社との連携を進めている事例をご紹介します。
事例① 株式会社大川印刷
他企業との交流や情報交換に加え、電力関係の企業と共同の取り組みが増加しました。サプライチェーン上の企業との連携や、これら企業向けの勉強会などの実施機会も増加しています。例えば、電力関係企業との共同で、「企業が取り組む気候危機への対応」というオンラインセミナーを実施しました*¹。また、教育機関との連携としては、フェリス女学院大学向けのオンライン講義も行っています*²。
*1 参照:企業が取り組む気候危機への対応-株式会社大川印刷
*2 参照:フェリス女学院大学オンライン講演-株式会社大川印刷
事例② 学校法人千葉学園 千葉商科大学
再生可能エネルギーの導入を目指す他大学や他教育機関との情報交換や連携を進めており、2020年12月には「自然エネルギー大学リーグ」の設立を呼びかけ、首都圏の他5大学とともに2021年9月の正式発足に向けて取り組みを行っています*³。
*3 参照:「自然エネルギー大学リーグ」結成を呼びかけ-朝日新聞デジタル
2. 企業イメージの向上
大きなメリットの二つ目は、企業イメージの向上です。企業イメージは、消費者の購買行動だけでなく、社員満足度の向上や人材確保など、様々な面に影響を与えます。
古くはCSR(企業の社会的責任)、昨今では「環境経営」が経営の重要なキーワードになる中で、再生可能エネルギーの導入は、世界の主要な社会問題の1つである気候変動問題に対する有効な対処策の一つであり、CSRや環境経営を実践する企業というイメージを醸成し、企業イメージのアップに寄与します。
また、SDGsにおいても、再生可能エネルギーは目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」と目標13「気候変動に具体的な対策を」を達成する手段であり、再生可能エネルギーが地産地消という観点からも推進されている現状を見れば、目標11「住み続けられるまちづくり」にも貢献するものだと言え、SDGs経営を推進する大きな手段となります。
では、再生可能エネルギ―の推進による企業イメージの向上は、どのような効果を生み出すのでしょうか。
社員満足度の向上・モチベーションアップ
再生可能エネルギーの活用推進は、企業の一活動に収まるものではなく、気候変動問題という大きな社会問題を解決する、重要な活動でもあります。その企業の社員にとって、自身が働く会社がそのような重要な活動を行っていることは、大きな刺激になるでしょう。
実際に環境経営のメリットの中で社員のモチベーション向上が指摘されており、またCSR経営では社員満足度やロイヤリティの向上も指摘されています。環境経営やCSR経営の1つの手段となる再生可能エネルギーの促進は、従業員にポジティブな影響を与えるでしょう。
事例 株式会社大川印刷
再生可能エネルギ―の導入に加え、印刷事業に関わるCO₂排出量をゼロにする「CO₂ゼロ印刷」を実現しました。これによって、「会社が先進的な取り組みを行っている」という社員の誇りが醸成されるとともに、社員の環境問題への意識変化も見られている、とのことです。
メディア効果
先述のような、再生可能エネルギーの導入による自社製品・サービスの差別化や付加価値アップにより、メディアへの掲載機会の増加が期待できます。再生可能エネルギ―導入に付随する企業イメージがメディアへの掲載に繋がり、メディアを通してさらなる企業イメージの創出へと発展させることができます。
今日では紙媒体だけでなくインターネット上のメディアへの掲載も、ビジネスチャンスの拡大やパートナーシップの構築、採用などに影響を与えることを考えると、長期的かつ波及的な効果が期待できます。
そこで、実際にメディアに取り上げられ、その影響も実感している事例をご紹介します。
事例① 株式会社大川印刷
2018年には、太陽光発電の導入について日経新聞に掲載され*¹、2020年12月9日のNHK「おはよう日本」では、再生可能エネルギ―に切り替えた企業として取り上げられました*²。
メディアへの掲載増加によって受注が増加し、2019年度の売上は2018年度比で8%増加しました。
*1 参照:初期投資ゼロで太陽光発電 ソーラーフロンティア-日本経済新聞
*2 参照:脱炭素は企業の”切り札”-株式会社大川印刷
事例② 学校法人千葉学園 千葉商科大学
再生可能エネルギ―の導入によって賞を受賞したり、それに伴いメディアへの掲載が増加しました*³。学生の意識変化にもつながり、自動販売機の撤去や省エネ化などの環境配慮に関する提案が、学生側から出るようになっている、とのことです。
*3 参照:千葉商科大、キャンパス内電力の「再エネ100%」達成-日経クロステック
採用力の向上
環境問題やSDGsへの若者の関心が高まる中、再生可能エネルギ―の導入は企業の積極的な姿勢の一つとして認識されます。日本の2050年温室効果ガス排出実質ゼロの宣言を受け、企業が将来を見据えた姿勢をとっているか否かも、就活生が注目するポイントになっています。就活生向けアンケートでも社会貢献性や環境経営が評価されているとの結果になっているものも多くあります。
事例 株式会社大川印刷
再生可能エネルギー導入についてのメディア掲載が人材確保に繋がっています。例えば、自社への再生可能エネルギ―導入が脱炭素への積極的な取り組みとして認知され、Z世代と呼ばれる世代から現在注目が集まっている「エシカル就活」のオンラインイベントに登壇者として招待されました*。このイベントの実施に加え、イベント内容についてのメディア掲載によって、企業イメージの向上と採用力の向上につながっている、とのことです。
* 参照:エシカル就活オンラインイベント第1弾に登壇します-株式会社大川印刷
3. 経営・パフォーマンスの向上
大きなメリットの3つ目は、経営・パフォーマンスの向上です。再生可能エネルギーの導入は経営の負担と捉えられる事が多いですが、電気コスト、災害などへの対応能力、そして長期的な経費を考慮すると、メリットも多く挙げられます。特に中小企業にとっては、大手企業よりも再生可能エネルギー導入のハードルが低いと言われています。
コスト削減
再生可能エネルギーの導入で気になる事のひとつが、やはり電気料金ではないでしょうか。再エネ100宣言RE Actionの調査によると、再生可能エネルギ―を全く導入しておらず30円/kWh以上の電気料金を支払っている団体がある一方で、再生可能エネルギ―導入率が80~100%と高くても20円/kWh以下に抑えられている団体もあることがわかりました*。前者のような企業の場合、現行の電気料金が比較的高いため、再生可能エネルギ―の導入によって電気料金を削減できたり、もしくは現行から負担を増やさずに再生可能エネルギ―に転換できる可能性があると言えます。
*参照・出典:再エネ100宣言RE Action 年次報告書2020-再エネ100宣言RE Action
また、再生可能エネルギ―設備の設置に関しては、太陽光発電の場合には「PPA・TPO(第三者保有モデル)」という、建物のオーナー(法人・個人)が初期費用ゼロ円・低コストで再生可能エネルギーを導入できる方法もあります。費用を抑えて導入し、コストパフォーマンスを上げることが可能です。
事例① 株式会社大川印刷
平成31年4月に国内初の「0円ソーラー」(前述のPPA・TPOモデル)により太陽光発電設備を設置・運用を開始しました。自社工場の消費電力の20%を太陽光発電による電力で賄い、不足分は青森県横浜町の風力発電による電力を購入することで、再生可能エネルギー100%を達成しています。2019年度の電気料金は、2018年度比で8%削減しました。
事例② エコワークス株式会社
電力を再生可能エネルギーに切り替えたことで、電気料金は半年で約45万円の削減につながりました(2020年時点)。電気料金については、大企業の場合は従来から単価の安い電気料金で契約していることが多く再エネ導入によるコストメリットが出にくい一方で、中小企業の場合それぞれの事業所が小さいため、再生可能エネルギ―に切り替えてもそれほど値上がりしていない、とのことです。
自然災害への対策
地震などに加え、近年では異常気象とそれに伴う自然災害が多発しています。災害時に企業活動を続けるための対策(BCP)への注目が高まり、災害時の自社用電力の確保はもちろん、地域への貢献や連携も企業経営においては大切になっています。
再生可能エネルギ―は、異常気象の要因である地球温暖化への対策としてだけでなく、自社電力の確保や、災害時の電力供給を通した地域貢献などの自然災害対策としても、大きく期待されています。なお、企業の災害時への対策である、事業継続計画(BCP)については、BCP Actionのサイトでより詳しくご確認いただけます。
ここでは、再生可能エネルギ―の活用によって、緊急時や災害に対応できた事例をご紹介します。
事例① 株式会社大川印刷
機器の故障で電力が完全に落ちてしまった際、パソコンや電話も使用できないという事態になりました。幸い、太陽光発電を自社に備えていたため、パソコンや電話用の電力を確保することができ、事業への影響を最小限に抑えることができた、とのことです。
事例② 総天然素材革工房 革榮
2019年の台風15号による千葉の停電では、自社屋上にある太陽光発電の電力を地域に開放し、停電解消までの3日間、地域住民の方に携帯電話の充電等に利用してもらいました。近隣には停電が1週間続いた地域もあり、再生可能エネルギーがあれば、その様な場合には尚更地域の役に立つことができるのではないか、とのことです。
ヒト・モノ・カネの活用と企業価値の向上
再生可能エネルギーの導入と聞くと、大規模な投資やコストアップなどの一方で目に見える効果は少ないと考える企業も未だいるかも知れません。しかし、前述のように再生可能エネルギーを導入することで、サプライチェーンでの存在感アップや取引機会の増加、自社製品・サービスの差別化、採用力の向上、従業員のモチベーション・ロイヤリティの向上、電気コストの削減、災害対応力増加など、大きなメリットが存在します。
経営は、ヒト・モノ・カネをどれだけ有効活用するかが大事だと言われますが、まさにこれら経営資源を有効活用できる方策の一つが再生可能エネルギーの導入であり、企業価値を大きく向上させる一手になると言えるでしょう。
勢いを増す再エネの波。目の前のコストをとるか、持続可能性を追い求めるか・・・
気候変動対策、脱炭素、環境経営、そして持続可能性。今後これらを追求する動きはさらに加速していくと予想されます。再生可能エネルギーの導入によって一時的に資金が出ていくとはいえ、様々なメリットを受けられます。
目の前のコストをとるか、それとも勢いを増す再エネの波に乗って持続可能性を追い求めるか。事業や経営を持続させるための、検討のタイミングにあると言えるでしょう。
本協会では、企業による再生可能エネルギーへの100%の転換と、それによる企業と社会の持続可能性の向上を後押ししています。再生可能エネルギ―の導入についてのご質問、ご相談がありましたら、お気軽に本協会にご連絡ください。
なお、企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示す枠組み「再エネ100宣言RE Action」の詳細や参加条件は、こちらをご覧ください。
再エネ100宣言RE Action公式HP