発電しただけで環境価値?カーボンニュートラルに必須の非化石価値とは?

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カーボンニュートラルの流れの中で大きな注目を集めているのが再生可能エネルギーです。石油や石炭などと異なり、発電時にCO2を排出しないことから自然に優しいエネルギーとして世界中で導入が加速されています。

再生可能エネルギーの脱炭素化の部分に着目して提唱されたのが「環境価値」です。通常、電気は電気エネルギーが利用できることに価値があると認識されてきましたが、再生可能エネルギーはこの電気部分だけでなく、環境に優しい部分も価値として認識されています。これが「環境価値」です。

そして、昨今のカーボンニュートラルの流れの中で環境価値を明確に規定し取引されるようになりました。日本ではこの環境価値を「非化石価値」と呼び、これを取引できるようにしたものが「非化石証書」です。

今回の記事では、非化石証書の概要や種類、JEPX(日本卸電力取引所)を介した取引方法について解説します。

非化石証書とは?

非化石証書とは、CO2(二酸化炭素)フリーな再生可能エネルギーにより発電された電気から環境に優しい、つまり二酸化炭素を排出しないという価値を切り離して証書化したものをいいます*。 

*参照:環境価値とは – 東京都環境局

「電気」と「環境価値」を分離した取引

気候変動問題が世界的な問題となる中、CO2の排出量を減らすことが課題となっています。企業は、株主などのステークホルダーから脱炭素への取り組みを求められており、また世界的には再生可能エネルギーはコストが安いエネルギーであり、多くの企業がこぞって導入しつつあります。

2018年5月、CO2を排出しないエネルギーから発電された電気から「環境価値」を分離して取引できるようになりました*。

*参照:2018年5月から始まる「非化石証書」で、CO2フリーの電気の購入も可能に? – 経済産業省・資源エネルギー庁

非化石証書の種類

非化石証書は、大きく「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書」の2種類に大別されます。また非FIT非化石証書は、再エネ指定とそうでないものに分けられます。

制度が開始された2018年5月の時点では「FIT非化石証書」の取引のみでしたが、2020年4月から新たに「非FIT非化石証書」が加わりました*。

*参照:「非FIT非化石証書」の期待と課題2020年度から自然エネルギーの電力調達手段に – 自然エネルギー財団

FIT非化石証書と非FIT非化石証書の違い

FIT非化石証書と非FIT非化石証書には、対象電源、非化石証書の売り手、取引方式の3つの違いがあります*。

*参照:非化石価値取引市場について – 経済産業省・資源エネルギー庁

対象電源

FIT非化石証書は、FIT電源(太陽光や風力、小水力、バイオマス、地熱などの発電方法で発電された電気)が対象となります。

一方で非FIT非化石証書は、非FIT再エネ電源(大型水力やFITの期間が満了した卒FITなど)や非FIT非化石電源(原子力など)など、FIT制度を利用していないものが対象となります。

証書の種類対象となる電源
FIT非化石証書FIT電源
非FIT非化石証書非FIT再エネ電源、非FIT非化石電源

非化石証書の売り手

FIT非化石証書の売り手は、GIO(低炭素投資促進機構)*となります。一方で非FIT非化石証書は、発電事業者が売り手となります。

売り手の違いはFIT制度に起因します。FIT制度のもとで一定額で買い取られる再エネ電気を再エネ賦課金という形で国民が負担していることから、非化石価値の帰属先も発電事業者ではなく国民になります。GIOは国民の代わりにFIT非化石証書を非化石市場で販売する団体であり、FIT非化石証書の売上は再エネ賦課金の低減に充てられます。

証書の種類証書の売り手
FIT非化石証書低炭素投資促進機構(GIO)
非FIT非化石証書発電事業者

*電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)に基づく費用負担調整機関

取引方式

FIT非化石証書は、JEPX(日本卸電力取引所)を介した市場取引によって取引されます。

一方で非FIT非化石証書は、JEPXでの市場取引に加えて、非FIT発電事業者と小売電気事業者の相対取引も可能です。実務的には相対取引でも非化石取引市場を通す必要はありますが、約定額は相対取引の中で決めることができます。

証書の種類取引方法
FIT非化石証書市場取引
非FIT非化石証書市場取引および相対取引

JEPX(日本卸電力取引所)における非化石証書の取引

JEPX(日本卸電力取引所)における非化石証書の約定量は少しずつながら年々増加しています。

FIT非化石証書の取引方法

まずは、FIT非化石証書の取引方法について解説します。

基本概要

FIT非化石証書に関して、基本的な取引概要は以下の通りです。

  • 売り手は、FIT法上の費用負担を調整する機関である低炭素投資促進機構(GIO)
  • 買い手は、小売電気事業者
  • JEPXが開催する非化石取引市場を通じて非化石証書の取引が行われる
  • FIT電気の買取量に相当する非化石証書が小売電気事業者に売却される

オークション方式

FIT非化石証書は、マルチプライスオークション方式により取引が行われています。

マルチプライスオークションでは売り手は成り行き価格のみの入札を実施し、「買い入札量」または「売り入札量」のいずれか少ない量に合わせて全て約定します。買入札価格がそのまま約定価格となり複数の価格で取引するため、シングルプライスオークションより総約定額は増加することが予想されます。

最低価格と最高価格

最低価格は1.3円/kWh、最高価格は4円/kWhとなっています。公表されている過去の取引を見ると、基本的には最低価格1.3円/kWhで落札されています。

非FIT非化石証書の取引方法

次に、非FIT非化石証書の取引方法について解説します。

基本概要

非FIT非化石証書に関して、基本的な取引の概要は以下の通りです。

  • 売り手は発電事業者
  • 認定の主体である国から電源および電力量の認定を受けることで、発電事業者は非FIT非化石証書を取得できる
  • 「JEPXが開催するオークション(市場取引)」または「発電事業者と小売電気事業者同士による相対取引」により非化石証書が売買される

オークション方式

非FIT非化石証書は、シングルプライスオークション方式により取引が行われています。

シングルプライスオークションでは売り手と買い手がそれぞれ価格を指定して入札し、需要と供給の一致点の価格で取引が行われます。

最低価格と最高価格

最高価格は4円/kWhとなっていますが、最低価格は設定されていません。

なお相対取引に関しては、取引の当事者間によって価格が設定されます。

まとめ

今回ご紹介した非化石証書は、環境に優しい電気に加算された価値を個別で売買できる便利なものです。

現時点では、非化石価値の取引量はFIT電源と比べるとかなり低いです。

しかし、脱炭素宣言とエネルギー供給構造高度化法により、小売業者は非化石電源比率を2030年度までに44%以上にする必要があるとされています。

そのため、今後非化石証書の取引ボリュームや取引価格は上昇していくことが確実視されています。

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