『再エネ化が必要なのは大企業だけ』
そう思っている中小企業の社長も多いかもしれません。しかし、公的機関全体として再エネ化が強化され、再エネ状況が公的機関の入札条件に組み込まれるなど、その動きは活性化しています。また、サプライチェーン全体で企業の社会的責任(CSR)が求められる風潮も強まっており、中小企業にとってなぜ再エネの取り組みが必要なのかを解説します。
目次
公的機関が再エネに取り組むことの意義
公的機関とは官公庁や地方公共団体などを指します。つまり、日本全体の公的な機関で、再エネに取り組むということです。既に環境省をはじめとして、防衛省や経済産業省、農林水産省、文部科学省、国土交通省、総務省では再エネへの取り組みが開始しています。
公的機関が再エネに取り組んでいくのには意義があるからです。意義の内容を見ると、今後も再エネへの取り組みが継続的かつより広範囲な活動になっていくことが分かります。その意義とは、次のようなことがあります。
- 脱炭素による持続可能な社会への変革
- ニューノーマル時代の経済活性化策
- 日本のエネルギー安全保障の向上
脱炭素化による持続可能な社会の構築
地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出を抑える社会の実現が求められています。菅総理大臣による所信表明演説にも、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという具体的な目標が示されています。
参考:NHK サクサク経済Q&A『脱炭素社会』
ニューノーマル時代の経済活性化策
予測不能な変化が継続するニューノーマル時代の、経済を活性化させる一つの対策としても期待できます。再生可能エネルギーの取り組みを開始する際、太陽光発電やバイオマス発電などにおいては『設備導入』から『発電』が続き『設備の廃棄』まで新しい経済活動を見込むことができます。
前述の2030年の再エネの利用計画が達成された場合には、総投資額は約28兆円になり、そのうち国内投資額が約22.9兆円となる試算があります。そのうえで、最終的な経済波及効果は約55.4兆円となる見込みです。
参照:みずほ情報総研『再生可能エネルギーの現状と将来』
日本のエネルギー安全保障の向上
エネルギー安全保障とは、『国民生活や経済・社会活動や国防などに必要な“量”のエネルギーを受容可能な“価格”で確保する』ことです。エネルギーの安全保障を強化するためには、エネルギーの自給率を改善させることや、必要な量を確保できなくなるリスクを低減させることで実現できます。
公的機関が再エネ化に取り組むことで、日本全体で必要なエネルギー量のうち自給できる量が増え、その結果エネルギーの安全保障の向上に繋がります。
参考:経済産業省資源エネルギー庁『エネルギー安全保障』概念の本質』
公的機関の再エネ取り組み状況
- 公的機関の再エネの取り組みは、環境省が主導的をもっています。また、具体的な数値目標を含めた計画的な取組を進めているのは防衛省です。
- 前述のとおり、すでに多くの公的機関でその取り組みは予算化され、開始されています。取り組みの代表事例は大きく3つになります。
- 導入ならびにその促進
- 研究や技術開発ならびにその促進
- 導入拡大のための基盤の構築と整備
- 参考:再生可能エネルギー導入拡大に向けた各府省庁の取組状況
防衛省
公的機関の中でも取り組みが進んでいるのが防衛省です。2020年4月時点、防衛省151施設において再生可能エネルギーによる電力調達が実施され、その中の115施設では再エネ比率30%の電力になることが発表されています。
参考:メガソーラービジネス『防衛省、115施設で「再エネ30%」』
さらに、防衛省の入札にはその入札条件にも再エネの取り組みを評価する条項が追加されています。具体的には『二酸化炭素排出係数』『未利用エネルギー活用状況』『再生可能エネルギー導入状況』『グリーン電力証書の調達者への譲渡予定量』『需要家への省エネルギー・節電に関する情報提供の取り組み』の各条項の取り組み状況の得点が70点以上であることが適合条件の一つになっている入札もあります。
参考:防衛省『入札公告(防衛省市谷庁舎で使用する電気[適合条件])』
環境省
環境省は、2030年までに使用する電力すべてを再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。その目標に先駆け、2020年4月から新宿御苑などの7施設を再生可能エネルギー100%に転換するなど、具体的に動き出しています。
また、再生可能エネルギーの利用を広げるために『気候変動時代に公的機関ができること~「再エネ100%」への挑戦~」』という再エネ調達実践ガイドを公表して政府や地方公共団体などの公的機関に広げ、日本全体で再エネ化に向けて働きかけを行っています。
公的機関・地方自治体が再エネに取り組むには?
前述の環境省が公表している『気候変動時代に公的機関ができること~「再エネ100%」への挑戦~」』では、再エネ調達方法やその行動契約、調達コストの削減方法等、環境省の再エネに関する具体的な取り組みが紹介されています。これらは、今後公的機関が再エネに取り組もうとする時の参考にされていくと予想できます。つまり、公的機関の今後の動きを予想する上で参考にすべき資料といえます。
例えば、公的機関の再エネへの取り組みには予算などの制約があり、電力の調達コストをあげずに再エネ比率を高めていくことがまず前提となります。そのためにガイドでは、コスト削減のために複数の施設での電力契約を一本化し、電力契約を大きくすることでコストメリットを得ながら、リバースオークションで複数の業者に価格を競わせることを行っています。
これらは入札業者側からみると、規模の大きな受注を得る機会や、入札に参加できる機会が増えることにつながります。
サプライチェーンに求められる取り組み
今後、公的機関との取引を行う上で、再エネへの積極的な取り組みを行うことが企業に求められます。防衛省のように入札の条件になる大企業だけの問題ではありません。
大企業が社会的責任として再エネへの責任を求められた場合、その大企業のサプライチェーンを構築している中小企業にもその影響は波及していきます。これらの中小企業が社会的責任を果たしているかどうかは、そのサプライチェーンを代表する大企業に対しての評価にもつながるのです。
今後は、公的機関や社会が大企業へと再エネの取り組みを促進し、さらに大企業がその仕事を発注する中小企業へと再エネ促進をするという流れになるのは確実です。
すでに、GAFAの一角であり世界の時価総額でトップのAppleは、2030年までにサプライチェーンを含めた再エネ100%の実現をすることを発表しています*。時価総額トップの企業のこのような動きは、時価総額の向上を目指す他の企業も真似る可能性は大きいのです。
*参考:アップル「2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」
まとめ
世界的な動きである再エネの取り組みは、環境を意識している企業だけの動きだけではなくなっています。今後は公的機関との取引をする企業やその企業のサプライチェーンを含む企業、取引がある企業にまで、再エネの取り組み状況が自社の受注や売上に影響することになります。
いま、中小企業において再エネに取り組むことは簡単ではないかもしれません。しかし、より早く再エネ率を100%にすることで、入札で有利になったり、取引の機会を先取りすることも可能となるのです。
こちらの記事では、明日からでもできる再エネの導入の方法について解説しています。ぜひご覧ください。