カーボンニュートラルとは?

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2020年10月に行われた、菅首相の所信表明演説の中に「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という言葉が出てきました。これ以来「カーボンニュートラル」という言葉がメディアに登場する機会が増えた印象を受けます。

「カーボンニュートラル」とはいったい何のことを指すのでしょうか。

この記事では、カーボンニュートラルについて解説したうえで、その実現方法に迫っていきます。

カーボンニュートラルとは何か

「カーボンニュートラル」とは、「温室効果ガス排出量が実質ゼロ」の状態を意味しています。経済活動等による温室効果ガスの排出量を極力減らすとともに、森林などによる吸収量も増やし、結果的に中立した状態、「ニュートラル」にすることを指します。

これから、CO₂をはじめとする温室効果ガスを世界全体で排出しないように取り組むわけですが、どうしても排出せざるを得ない量が残ります。やむを得ず排出された温室効果ガスは、吸収したり固定したりできるようにする必要があるということです。

カーボンニュートラルを実現するための戦略とは

カーボンニュートラルの産業イメージ:経済産業省 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-4.pdf

2050年までにカーボンニュートラルを実現するというのは、簡単なことではありません。国家的に大きな変革を促す施策が必要です。

そこで政府は2020年12月25日に「グリーン成長戦略」を策定したことを発表しました*¹。

地球温暖化への対応をコストととらえるのではなく、『予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携といったあらゆる政策を総動員し』、『経済と環境の好循環』を作っていこうという戦略です。

経済界がカーボンニュートラルの実現に向けての投資活動を促進するよう、2050年までの間、政府が後押しを行うということです。

そして、翌年2021年6月18日には、それを『さらに具体化』したものが発表されています*²。

これらの戦略内容は各産業分野でかなり具体的に落とし込まれ、2050年までのタイムラインさえもがしっかりと策定されています。

では、どのようにカーボンニュートラルを実現しようというのか、その中身を見ていきましょう。

*1 参照:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました-『経済と環境の好循環』につなげるための産業政策-」
*2 参照:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」

温室効果ガス削減はどのようにして行うのか

2050年のカーボンニュートラルを実現するためには、あらゆる産業でこれまでのビジネスモデルを大きく変革させていかなくてはなりません。 これにはまず、産業を「電力部門」と「非電力部門」に大きく分けて考えます。ここからは、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略」を参考に、温室効果ガスの削減方法を解説していきます。

電力部門

国立研究開発法人国立環境研究所:日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2019年度)確報値(2021年4月13日)より作成
https://www.nies.go.jp/gio/archive/ghgdata/jqjm1000000x37h1-att/L5-7gas_2021_gioweb_ver1.0.xlsx

「電力部門」とは発電事業者のことです。日本における2019年の二酸化炭素排出量の39.1%はエネルギー転換部門、すなわち発電事業者から出ており、『電力部門の脱炭素化は大前提』とされています。

電力部門の脱炭素化には以下の方法が考えられています。

再生可能エネルギー

太陽光・風力・バイオマスなどのことですが、とりわけこれから注力すべきは、「蓄電池」と「洋上風力」であることが書かれています。

自然の力を直接利用する太陽光発電や風力発電は、時間的な電気の需給関係が一致しないのが課題でした。大容量蓄電池の開発によってこの課題を解決することが期待されています。

また、陸上に作ると地理的な制約や、風況による稼働率が問題となる風力発電も、洋上で大規模に建設することでそれら問題は改善されるのではないかとされています。

また風力発電機の製造が日本国内で行われていないということも、産業上の課題とされています。日本国内での生産を行うためには、コスト、サプライチェーン、各種規制などいくつかの障壁を乗り越えなければならないようですが、この課題にも取り組んでいこうとしています。

水素発電

最も期待されているこれからの分野であり、最大限に追求するとしています。供給量・需要量を拡大し、燃料アンモニア産業も拡大させることでコスト削減をするとしています。

水素発電は、水素発電タービンの実証実験が完了しておらず、商用化が課題ですが、今後、政府は世界に先行して商用化を実現すべく実証実験を支援するでしょう。

また、各電力会社に対しては・電力会社へのカーボンフリー電力の調達を義務化し、『水素を活用すればインセンティブを受け取れる電力市場を整備する』とまでしています。

火力+CO₂回収

「必要最小限使わざるを得ない」として排出されるCO₂を回収する産業の創出を行うとしています。

炭素を固定化してセメントなどの建材に利用したり、代替航空機燃料(SAF)の供給拡大、水素とCO₂を反応させてつくる合成燃料などの実用化、あるいは廃プラスチック・廃ゴムやCO₂のプラスチック原料化技術の確立などが課題とされています。

原子力

安全性を向上させ、依存度を減らし、再稼働を進めることとしています。

現在の技術ではこの中のいずれか一つだけを拠り所にすることはできず、「あらゆる選択肢を追求」するとしています。

非電力部門

非電力部門は、「産業・運輸・業務・家庭部門」を指し、これらでは「電化」をすすめることとしています。熱需要には「水素化」・「CO₂回収」で対応することが考えられています。

経済的には『水素産業、自動車・蓄電池産業、運輸関連産業、住宅・建築物関連産業を成長分野』にしようとする目論見があります。

産業

水素還元製鉄などの製造プロセスの革新

運輸

電動化・水素自動車・バイオ燃料などの使用

業務・家庭

電化・水素化・蓄電池の活用

非電力部門が電化することによって、電力需要が一定程度増加することが見込まれており、両部門での炭素除去技術などのイノベーションが不可欠であるとしています。

CO₂排出量は完全にゼロにはできない

こうした戦略を実行しても、CO₂排出量を完全にゼロにすることはできないだろうとされています。

自然条件に左右されたり、安全優先のために停止せざるを得ない発電方法のバックアップ用として従来の火力発電が必要になるからです。水素やアンモニアを燃焼させるのにも、ある程度石油燃料が必要となります。

どうしても残ってしまう化石燃料使用分のCO₂は、固定したり吸収したりすることでカーボンニュートラルを実現していくことになるわけです。

CO₂固定・吸収の方法とは

このように、どうしても排出されてしまうCO₂は固定したり吸収したりして「ニュートラル」の状態にしていかなくてはなりません。

固定する方法としては、前段で説明した各種CO₂リサイクルの技術を用いて再利用する方法や、焼却炉などから排出されるCO₂を分離固定化することも試みられています。

炭素循環型セメント製造プロセスの概念図:NEDO国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101319.html

また、吸収する方法としては次のような取り組みをすることとされています。

バイオ炭資材の開発

CO₂を吸収する植物から作られるバイオ炭の利活用をすすめる

エリートツリーの効率的な開発

特別に成長が早い品種改良した樹木を、最新技術で造林していく

高層建築にも使用できる木質建築部材の開発

高層建築にも木材を利用できるようにし、木材の需要を増やす

ブルーカーボン炭素吸収量の計測方法の確立

海藻に吸収されるCO₂の量を計測できるようにする

かなり年数が経過し成熟した森林はCO₂の吸収量が減っていくため、木材として使用して新たに造林することが重要なのです。

また、日本の森林のさらなる利活用とコスト削減がすすまなければ、価格が折り合わないため、電力部門である木質バイオマス発電もこれ以上の進展は望めません。

よって、グリーン成長戦略の中では、まず木材の利用を促進して、最新の品種と最新の技術で新しい造林を進めることが第一に考えられているようです。

カーボンオフセット実現に向けて再生可能エネルギーが果たすべき役割

グリーン成長戦略の中では、電力部門の脱炭素化の第一に太陽光や風力などの再生可能エネルギーがあげられています。これからは「蓄電池」や、もっと効率よく発電させるための「洋上風力発電」であると述べられているので、この分野に焦点が当たるでしょう。

また、カーボンニュートラル実現のためには、農業や林業にも、重要な役割が期待されており、今後は再生可能エネルギーを中心にして、産業全体が語られる機会が多くなることが予想されます。

*参照:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略」

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