日本の林業は地球温暖化を防げるか?

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再生可能エネルギーのうち、太陽光、風力と並び、注目を浴びる木質バイオマスエネルギー。その燃料供給源である日本の林業は、多くの課題を抱えているといいます。

林業を再生可能エネルギー供給源として持続可能な産業にするためには、どのような課題をクリアしていかなければならないのでしょうか。

日本の林業が抱えた課題とは

 戦後、復興のため日本の山林は乱伐されました。木材価格は高騰し、政府はスギなどの植林を推し進める「拡大造林政策」を実行します。

 昭和30年代の経済成長に伴い、木材価格は高騰、「お金を銀行に預けるより木を植えたほうが良い。」とまで言われました。

 政府は、木材の輸入を自由化。輸入材は国産材より価格が安いため、輸入量はどんどん増えていきました。やがて変動相場制になると円高が加速してますます輸入は増加します。

 昭和55年ごろになると、国産材の需要は全体の2割にまで落ち込んでしまいました。にもかかわらず、「拡大造林政策」は平成8年まで延々と続けられます。

 結果として、国産材の価格は低迷、伐採搬出の経費の方が高いという状態になり、林業離れが加速。山は荒れ始めました。それは災害を誘発するなど、環境問題にまで発展。 林業関係者の多くは、手をこまねくばかりです。

ところが、こうした傾向も2002年ごろから変化がみられてきます。

参照:「日本の林業の現状森林・林業学習館

国も注目する木質バイオマス

農林水産省林野庁 令和元年(2019年)木材需要表よりグラフ化

 1974年ごろ「再生可能エネルギー」が注目を浴び始めました。輸入に頼らない安定したエネルギー源を確保する必要性が叫ばれ、木質バイオマスも再生可能エネルギーの一つとして研究されます。

 2002年には「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、その導入が各地で積極的に始まりました。

 背景には、高性能林業機械の導入が進み、間伐材を搬出するのに人手がかからなくなってきたことと、石油の代わりに、チップを燃料にする高性能ボイラーの普及があります。 建築用の木材として利用価値のない間伐材は、チップ化して製紙会社に販売するほかに、木質バイオマス発電という新たな需要先が提唱されるようになってきたのです。

カーボンニュートラルという考えかた

 樹木は成長する過程で光合成をおこない、空気中のCO₂を吸収して酸素を放出します。吸収された炭素は樹木内に固定され、それは重量の50%にも及びます。

 木質バイオマス発電は、木材を燃焼させるためCO₂を排出しますが、それは元々空気中のCO₂が吸収されて木材に固定されたものです。固定された炭素を燃やして、もう一度空気中に返し、それが再び植物に吸収されるので、大気中のCO₂を増加させません。プラスマイナスゼロ、(カーボンニュートラル)なので、「京都議定書」の規定ではCO₂を排出しないものと同じであるとされています。

日本における木質バイオマスの現状

 木質バイオマスによる発電機、もしくはボイラーを有している事業所は全国で1,398か所あり、木質バイオマス発電機の総数は264機におよびます。そのうちの半分以上は2005年以降に導入されており、2015年以降はさらに急激に伸びています。

農林水産省林野庁「令和元年木質バイオマスエネルギー利用動向調査」より作成

 2021年2月現在、全国のバイオマス発電所の最大出力を合計すると2,817,753kWにも及びます。同時期で原子力発電所の最大出力の平均が2,205,533kwですから、原発1個分に匹敵することになります。

一般社団法人エネルギー情報センター 最大出力ランキング(2021年2月現在)より作成

木質バイオマス先進国・オーストリアでの普及状況

 オーストリアは国土の半分が森林で、冬には暖房のためのエネルギーが大量に必要になることから、原子力発電所の建設やダムによる水力発電所の建設が検討されましたが、いずれも国民の反対によって実現しませんでした。 そのようななか、木質チップを燃料とするボイラーは独自の進化をとげ、2000年代までにはコンピュータ制御で驚くほど高効率で燃焼させられるようになりました。

 いまや、オーストリアは総一次エネルギー供給の14%を木質バイオマスで賄っています。

参照:「木質バイオマス発電:苦難の歴史に学ぶ(4)〜オーストリアのバイオマスFIT:現状と展望〜」一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会

日本における木質再生可能エネルギーの将来は

 大規模なバイオマス発電は、総経費の6~7割が燃料費だと言います*。燃料チップの調達を安価な輸入品に頼っていますが、それでもこの燃料費も年々上がってきている一方、電力の買取価格は下げられる傾向にあります。あらたに発電所をつくるのは非常に厳しいと言わざるを得ません。

 コストの壁を超えるには、燃料となる森林を持続可能な形で育てていく方法論や、チップを木炭化したものを火力発電所で燃焼させる技術など、新しい方法の確立が期待されます。 あきらめず、あたらしい技術開発を続ければ、必ず道は開けることでしょう。

 これからの、再生可能エネルギーを考える時、木質バイオマス利用技術の発展から目が離せません。

*参照:「令和2年10月16日林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会報告書経済産業省

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