今回は、非化石証書の取引という一見難解な仕組みの復習と、「トラッキング」が付くことにより再生可能エネルギーの世界がどのように変化していくのかを解説していきます!
目次
非化石証書の取引
2018年5月から「非化石証書」の取引が始まりました。
そして2019年2月の取引からは、非化石証書に「トラッキング」を付ける実証実験が始まりました。
証書にトラッキングが付いて以降、非化石証書の約定量は以前より大きく増加しています。
非化石証書とは
非化石証書とは、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料によらない発電方法、いわゆる「非化石電源」で発電された電気の「非化石価値」を切りはなして証書化したものです。
化石電源(化石燃料による発電方法)で発電した電気も同じ『電気』ではありますが、非化石電源で発電された電気には、発電の過程でCO₂を排出しなかったというクリーンな価値「非化石価値」があると考えられています。
発電された後に送電線に流れれば見えなくなってしまう「非化石価値」を可視化したものが非化石証書であり、3種類にわけられます。
- FIT非化石証書(再エネ指定)
太陽光・風力・バイオマス・小規模水力・地熱などの発電のうち、FIT制度で買い取られた電気の非化石価値を証書化したもの - 非FIT非化石証書(再エネ指定)
再生可能エネルギーのうちFIT制度の買取対象となっていない電気の非化石価値を証書化したもの
(例)大型水力発電、FITの買取期間を終了した住宅用太陽光など - 非FIT非化石証書(指定なし)
FIT制度の対象ではなく、再生可能エネルギーでもない非化石電源の非化石価値を証書化したもの
(例)原子力発電など
これら非化石証書は日本卸電力取引所(JEPX)におけるオークションや、相対取引で取引されます。今回はこの中から、太陽光・風力・バイオマスによるFIT非化石証書について解説します。
参照:「非化石証書の抜本的な見直しを、電力の環境価値を適正に評価する制度へ」-自然エネルギー財団
「非化石証書とは。概要とほかの証書との違い」-スマートでんきコラム
FIT非化石証書はどのように活用されるのか
FIT非化石証書を買うことができるのは、小売電気事業者と大口需要家です。これらの事業者や需要家は非化石証書を購入することで、自社のCO₂排出量を減らすことができます。
たとえば、100%化石電源の電気を売っている小売電気事業者が、供給量の30%分の非化石証書を購入すれば、その会社の供給する電気のうち30%はCO₂を排出しない電気であるということになり、「CO₂排出量を30%削減をした」と言うことができます。
また、非化石証書の販売収益の一部は再エネ賦課金にも充当されるため、消費者の電気代の負担が少なくなることも期待されています。
参照:「FIT非化石証書のトラッキング化について」-資源エネルギー庁
トラッキングとは
FIT非化石証書に対して、「電気の産地証明」を付与する仕組みがトラッキングです。電気の環境価値だけを切り取ったものが非化石証書ですが、FIT制度で買い取られ一度送電線に入った電気は、どこで発電されたものなのかがわからなくなります。
そこで、政府主導でトラッキング付き非化石証書を発行するためのシステムがつくられました。小売電気事業者や大口需要家は、自分が購入した非化石証書がどこで何によって発電された電気なのかを証明できるようになるのです。
RE100宣言企業にとってトラッキングは必須
トラッキングシステムで非化石証書による非化石価値の由来を(再生可能エネルギーの非化石価値の由来を/使用電力の非化石価値の由来を)明確にできるようになったことは、RE100の参加企業にとっては朗報であり、これによって非化石証書の約定量は格段に伸びました。
事業活動に必要なすべてのエネルギーを再生可能エネルギーにより調達し、温室効果ガスの削減を目指す国際的な取り組みであるRE100の宣言企業は、「ブランドイメージの向上」や「投資対象として高評価を得られる」というメリットを享受できる代わりに、調達電力の再生可能エネルギー100%化へ向けた明確な指針設定とその実現が求められています。
こうした責務をもつRE100宣言企業には、市場で非化石証書を購入する場合、証書にトラッキングがついていることが求められています。
参照:「環境価値とRE100その4 トラッキング付き非化石証書」-Energy shift
トラッキングと再エネ業界のこれから
トラッキング付非化石証書の取引が始まったことによって、再生可能エネルギーによる発電の需要は、経済循環の仕組みの中に取り込まれつつあります。再エネ発電への投資や需要は今後ますます盛んになり、新たな技術開発も促進されていくことでしょう。
世界経済に影響力のある大企業が、こうした脱炭素化に向けた需要があることを市場に広めて、電気を供給する事業者にイノベーションや投資を促す状況が、いよいよ始まったと言えそうです。
こうして再生可能エネルギーへの投資が経済成長への好循環を作り出す状況こそが我々の望んでいた未来なのではないでしょうか。
「地球環境のため」というお題目で慈善事業をやっているような感覚は昔のものとなり、再生可能エネルギーは国際社会の需要にこたえて大きく増産され、いずれ石油に代わる経済活動の大きなファクターになることは間違いありません。
これからの再エネ業界は、エネルギー資源供給元として非化石証書市場の取引動向に注目しながら「経済活動としての再エネ」を本格稼働させる段階に来たと言えそうです。