政府が宣言している2050年までのカーボンニュートラル実現には、太陽光パネルは欠かせない存在であり、継続して使用することが必要です。
2012年の固定価格買取制度(FIT)導入以来、加速度的に増えてきた太陽光発電ですが、太陽光パネルにも当然ながら耐用年数というものがあります。それは25年~30年ほどとされており、2040年前後に大量の太陽光パネルの廃棄が出ることが予想されています。
今後、太陽光発電に携わる人たちは、否応なく耐用年数を迎えたパネルの処理(廃棄・リユース・リサイクル)について考えざるを得ません。廃棄太陽光パネルの処理に関するシステムは確立しているのでしょうか。
この記事では、廃棄太陽光パネルのリユース・リサイクルの現状がどうなっているのか、国の方針や最新の技術、今後の見通しなどについて解説します。
目次
廃棄太陽光パネルの現状
現在、日本国内にはどれくらいの太陽光パネルが設置されているのでしょうか。
1994年から2015年までに設置されたパネルの出力数で統計を見てみると、累積で35,000MW弱となっています。
現に日本では、年間約 4,400tの太陽光パネルが使用済となって排出されていて、2030 年代後半には年間約 50~80 万 t の太陽光パネルが排出される見通しです。もちろん、災害、故障、不具合など何らかの理由で、製品寿命よりも前倒しで排出されることも想定されます。
近年、世間からは最終処分場のひっ迫をはじめ、不法投棄や、そのまま放置されることを懸念する声が多く聞かれるようになっています。量の問題だけではなく、有害な物質が適切に処理されず廃棄されることを心配する声もあります。
こうしたことは予想されていたはずですが、国の方針はどのようになっているのでしょうか。
国の方針はリユース優先
日本では、循環型社会を形成するための法体系ができています。循環型社会形成基本法では、廃棄物等の処理の優先順位として次の順番で取り扱うことが望まれています。
- 発生抑制(リデュース)
- 再使用(リユース)
- 再生利用(リサイクル)
- 熱回収
- 埋立処分
使用済み太陽光パネルも、ほかの家電製品などと同様にこの順番で取り扱うこととなっています。埋め立て処分などの前にリユースやリサイクルが検討され実施されるのです。
前段でも述べたように、年間約 4,400tの太陽光パネルが使用済となって排出されていますが、そのうち約 3,400tはまだ使えるものであり、リユースされています。残りの約 1,000tがリサイクルまたは処分されていると推計されます。
現実に75%が再利用されて、残り25%もすべて廃棄されずに一部リサイクルされているということですから、全くの放置状態等を心配する状況ではないことが分かります。
現在のリユースやリサイクルの技術
太陽光パネルはこの図のような流れで、リユース、リサイクル、埋め立て処分となりますが、まず設置場所から撤去されたらリユースできるものは再販に向けて整備されます。
どうしてもリユースできないものは、シュレッダーにかけられ、アルミ・ガラス・シリコン・プラスチックといった残渣になります。
このうち、アルミは分離されリサイクルされる技術が確立していますが、ガラスやプラスチックに関しては、最終処分で埋め立てになることが多いようです。
ガラスや、プラスチックのリサイクル技術がないわけではありませんが、分別してリサイクルするのに採算が合わず、いまのところ埋め立て処分が主流となっています。
また、気になる有害物質ですが、太陽光パネルには、鉛、セレン、カドミウムが含まれているという情報をよく見かけます。この情報は間違いではないのですが、そこまで大きな問題ではありません。
というのも、現在普及している太陽光パネルの95%以上はシリコン系のパネル(上記グラフの濃い青色と薄い青色部分)であり、電極等に使用されている数グラムの鉛があるものの、セレン、カドミウムなど有害物質は含まれていないからです。
また、鉛が含まれているという情報ですが、これは電極などに使用されている“はんだ”に含有されている鉛のことを指します。一般の家電製品、電子機器のプリント基板には必ず使用されているものであり、太陽光パネルだけが悪いわけではないのですが、最近では鉛を使用しない”はんだ”の使用にシフトしつつあります。
残り数%しかない化合物系(上記グラフの緑色部分)も、充填剤(EVA樹脂等)で強固に封着されているわけで、カバーしているガラスの亀裂などによって、有害物質が流出するような危険性は低いと考えられるのです
ただし、心配されているほどのことはないにしろ、廃棄物として処理する際には適切に処理する必要があることは言うまでもありません。
参照:太陽光発電所の廃パネル問題とは? 何が問題で何が正しい?(前編)(HATCH)
参照:パネルに含まれる成分(有用資源と環境影響)(PVリサイクル.com)
参照:国内住宅用 単結晶無鉛はんだ太陽電池モジュール新商品発売(三菱電機株式会社)
今後の見通し
太陽光パネルを構成する材料のうち、その重量の75%以上はガラスとアルミが占めています。アルミは完全にリサイクルできる技術が確立されていますが、今後の課題が全体の60%以上を占めるガラスをどうリサイクルするかです。
自動的に機械で選別することが出来ない上、リサイクルしても高く売れない材料は、埋め立てたほうが良いということになります。そのため、事業者は処分代を払って産業廃棄物処分業者に埋め立て処分を委託しているのが現状です。
ところが、処分する前に買い取るという業者もいて、処分代を払うくらいならそこに売ってしまうというケースもあるといいます。そこでは太陽光パネルが人件費の安い海外に輸送され、有価で取引される素材だけを回収していることが想像されます。家電製品、プラスチック、古着などにもみられるような環境汚染の原因になっていることが懸念されるのです。
フランスなどでは、環境保全意識の面や技術の面でも日本より先進的な取り組みがなされており、ガラスも含めたリサイクル率は90%だといいます。
日本においては、再生可能エネルギーに関わる人たちによる努力だけではなく、粉砕された状態からのガラスやシリコンのリサイクル技術とエコシステムが出来上がってこなければ実現は難しいでしょう。
参照:太陽光発電所の廃パネル問題とは? 何が問題で何が正しい?(前編)(HATCH)
廃棄問題をのりこえて
日本国内でも太陽光パネルのリサイクル技術は行政も含めた各方面で議論され開発がすすめられており、今後の発展が期待できます。
とにかく今は地球温暖化をストップするため、2050年までにカーボンオフセットを実現しなければなりません。世界的な流れが化石燃料を使わない方向になっている今、ここで普及を止めるわけにはいかないのではないでしょうか。
そのためには、太陽光パネルのリサイクル技術開発とエコシステムの充実が期待されます。これは、再生可能エネルギーに携わる人々にとって今後も注目するべき観点になるでしょう。
参照: 太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けた ガイドライン(第二版:環境省)
参照:循環型社会を形成するための法体系(環境省)